「ガンセンター寄席②」の巻

さて寄席の当日を迎えた。

会場は通常病院で会議室?として使われているというかなり広い部屋。

高座や周りの飾りは看護師さん達が手作りしてくれていたのだが、その中にティッシュで作られた「造花」が。

まあ随分と久しぶりにこの飾りをを見たような気がする(ちょっと嬉しい)。

通常高座には緋毛氈(ひもうせん)という赤い布をかけるのだが、ここではかけてある布が白い。

よく見てみると病院のシーツが使用してある。

「成程、さすがは病院だなぁ。まあせっかくご用意して頂いたんだから白い高座というのも一興かぁ」と納得。

会場の下見を終え、着替えのため控え室へ。

着替えをして、簡単に今日の噺をブツブツ口ずさみ練習。

そうこうするうちに、看護師さんから「そろそろ準備をお願いします」との合図があり、いざ会場へ。

会場の入り口まで来て、中のお客さん(患者さん)を見て一気に沸き上がる驚愕。

「なっ、なんだあの患者さんは。機械や機材がいっぱい体に付けられている・・・(呼吸補助装置)。」

「それにあそこに固まって座っている女性たちはどう見ても中学生くらいだよなぁ。ニット帽をかぶっているということは・・・(抗がん剤治療の影響で髪が抜けている)」

「小さな赤ん坊を抱いているお母さんまでいるぞ・・・。これはどう考えてもガンなのは・・・(お子さんだよなぁ)」

入院患者さん向けに落語をやると聞いて、てっきり「比較的自分で動けるくらいの軽い症状の人が見にくるのだろう」と考えていた自分の浅はかさ・・・。

とんでもない勘違いである。

「この人達が笑わなかったら、いやその前に楽しんでもらえなかったらどうしよう・・・・。」

そして一気に押し寄せる不安と後悔、それに止まらない冷たい汗・・・。

そこに追い打ちをかけるような看護師さんの声。

「ではお願い致します」。

こうなってはどうしようもない。

とにかく覚悟を決めて高座へ向かう。

たかだか10メートルの距離がやけに長く感じられたその時、いきなり湧き上がる1人の笑い声。

ふとみると、先程見たニット帽をかぶっている中学生くらいの女の子が、

「きゃ~この人、歩いているだけで何か可笑しい!!!!」

「きゃあ~、はっはっはっ!!!!!」

と言って腹を抱えて笑っている。

私は何もしていない・・・。

ましてや喋ってすらいない・・・。

この状況にふと我に返り「え~い、こうなったらやるだけやってやるぅ~~~~~」といい意味で開き直った私。

高座に座って噺を始めると、あちこちで上がる大爆笑!!

私も調子に乗って落語をし、あれよあれよいう間に噺は終了。

大拍手の中、高座から降りた。

とりあえず笑ってもらえた嬉しさと、少しはお役に立てたかなという満足感でとりあえずその時は大満足だった。

そう、この時までは・・・。

そして次の演者が高座に上がったので、私は観客席の端の方に着席。

次の話は正直なところそこまで爆笑する噺ではない・・・。

しかしながら、患者さんたちは大爆笑している・・・。

そこに感じるかすかな違和感・・・。

次の瞬間、

「そうか、これが女医さんが言っていた笑いに飢えているという事なんだ」

と気が付いた・・・。

患者さんたちは決して落語が可笑しくて笑っているのではなく、今思いっきり笑ってもいい環境にいられるという事が嬉しいのではないか。

きっと普段は病室でこんなに笑う事は出来ないのではないか?(あくまで推測ですので違ったら申し訳ございません)。

いくら笑いが免疫力を上げるといっても、いったいどこで笑うのか?

そもそも何に対して笑うのか?

この方達はきっと日々の時間と戦って、今日の今という時間を精一杯生きていらっしゃるのであろう・・・。

明日という日は来るかもしれない、でも1か月後は?もしくは1週間後はどうなの?

そう思って患者さんたちを見ていたら、思わず涙が流れてきた・・・。

同情ではない。

同情はしない、だってそんなの患者さんに失礼だから・・・。

本日の寄席は3人、時間も1時間と決めていた(患者さんの体力を考えて)。

そして最後の演者である女医さんの噺が終わる。

女医さんから看護師さん達へのお礼の言葉があり、次に患者さんたちへ向けた一言があった。

「皆さん、笑いは免疫力を上げると言われています。そして今日みたいに大笑いして、ガンを吹き飛ばしましょう!!また半年後に行いますから、皆さん次は自宅から通院して来てくださいね!!」

これにはやられた(参りました)、流石ドクターの一言である。

それから着替えて出るときに、数人の患者さんが待っててくれて「ありがとうございました」とのお言葉を頂いた。

「とんでもございません、こちらこそありがとうございました」と返答(この時も泣きそうになった)。

それからメンバー4人で反省会(という名の打ち上げ)なのだが、流石にいつもほど騒げなかった。

入院患者さん達を目の当たりにして、「自分はこの方達ほど今という時を一生懸命に生きているのか?」という人生に対する姿勢を問われたような気がしたからだ・・・。

人それぞれなので一概には言えない。

受け止め方もそうであろう。

しかし私はこの日から、何かあればあの患者さん達の姿を思い浮かべるようにして、「今この時を一生懸命に生きているか?」と自分に問いかけるようにしている。

話は反省会に戻るが、ふとした疑問があったので女医さんに質問。

私:「そ~言えば、何かどさくさに紛れて半年後もやるって言ってませんでした?ガンセンターの催しは年1回でしょ?」

女医:「そ~なのよねぇ、勢いで言っちゃった。でもね、院長先生がまたやって下さいってさ。これからは年2回やるわよぉ~~~~~」

私:「えっ・・・・。」

他メンバー一同:「・・・・・・・・・・」

かくして国立ガンセンター寄席は年2回の定例会となり、今現在で確か7~8回目くらいの開催になったのであった・・・。

ここからは後日談。

翌日はガンセンター中「落語」の話で持ちきりとなり、患者さん達もすっかり明るい顔をされていたそうである(良かった良かった)。

ただ最近病院側で困っていることがあるとの事。

女医さんに聞いてみたところ

「そちらの病院に入院したら落語が聞けるという話を聞いたのですが、どのようにしたらそちらに入院出来ますでしょうか?」

という問い合わせの電話がくるらしい。

流石にそこまでこっちでは責任取れませんよねぇ・・・・(苦笑)。

おあとがよろしいようで。

 

次回は

「バブル期+フランス料理=トラウマ」の巻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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